困り果てて先生に何色で塗ればいいのか聞くと、先生は「見えるままに塗ればいいのよ」と言った。
ポッカリとガラスドアだけ画用紙の白色が残った絵を見つめながら、僕はほんとうに困った。生まれて初めて「途方に暮れた」。ガラスドアの向こうがぼんやり見えるけど、眼の焦点をずらすと、ガラスドアにはこちら側が映っているようにも見えた。
毎朝同じ道を歩いて駅へと向かう。 僕の近道は病院の駐車場だ。 本当は立ち入り禁止なんだろうけど、早朝はほとんど車が停まっていないので、ここで約5メートル分の近道をする。
今日の朝、ここで犬の散歩をしているおばさんとすれ違った。 といっても主役は、おばさんではない。犬のほうだ。 駐車場の出口に鎖が地上10センチほどを垂れ下がっているのだが、僕は見てしまったのだ。この鎖をまたぐ時の犬の顔を。
写生大会が時間切れになる直前、僕はガラスドアを灰色の絵の具で塗りつぶした。
野菜は色とりどりで綺麗なのに、ガラスドアの部分だけ綺麗じゃなくて、ものすごく後悔したことを覚えている。